稲田陽子(著),稲田芳弘(編集),小林真美(イラスト)
3.11の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)と同時に起きた原子力発電災害(事故)は未曾有のものであり、その影響は深刻である。そうした中、自然災害はもちろん核による地球規模の災害からのメッセージに、人々は、必然的に耳を傾けざるを得なくなっている。さらに、戦争の歴史でもあった「人類の旅」の最中、出くわした「2012年問題」も巷の話題となって久しいが、この物語は、混迷の時代に潜在している本当に大切なものを捜す「心の旅」とも言えるものである。物質文明がもたらした心、魂、自然や地球という「生命」の荒廃の中にあって、なお残り続けるものを探し求めてやまない「内なる声」の物語である。
宮沢賢治を想起させながら、今日的な問題に読者の目を向けさせるものの、それは、また独特の神話的なスケールを感じさせ、どんなジャンルにも属さない「スピリチュアル文学」という独自のスタイルの開拓を予期させる。神話と童話の間に息づくその物語は、人々とその底に秘めたるうたを分かち合おうとしている。あなたは、メタファーの中で何を想い、何を思い出し、何を発見することだろう。
表紙とグラビアには、北海道・道東の湿原と原野が生み出した「湿原(原野)の画家」佐々木榮松の絵画が観られる。自然と一体になったこころの地平線からは、物語に相似するように原始の風が渡るようだ。
また、著者の夫であり、『「ガン呪縛」を解く』の著者の稲田芳弘(ジャーナリスト、作家)の「蛇足的解説?」が巻末に添付されている。これも、この物語の「神話性」が呼び込んだユニークな解説でありながら、「稲田芳弘の世界」が同時に語られており、興味深い。